TCFD・TNFD提言に沿った情報開示

気候変動、自然資本/生物多様性に対する認識

伊藤園グループの事業活動は、自然資本が組み合わさることで得られる生態系サービスが生み出す、さまざまな便益、自然資本の恵みによって支えられています。生物多様性を含む自然資本の減少・喪失という環境課題によって、企業活動におけるリスクが増加する可能性があるため、事業を通じて環境課題解決に取組むことで、気候変動対策や自然資本の過剰消費の削減につながり、最終的には企業の持続的な成長につながると考えています。一方、環境課題の解決に取組むこと等により、生物多様性や自然資本の保全・回復を図ることができれば、企業の活動は持続可能性が高まると考えられます。
当社グループでは、まず連結売上高9割以上を占めるリーフ・ドリンク関連事業を対象に、優先して分析を行っています。気候変動関連の開示については、2020年度にTCFD提言に基づくシナリオ分析を実施しています。それ以降、バリューチェーン全体を把握できるように、毎年、対象の事業範囲を拡大しています。当初は、バリューチェーンの中でも当社主力商品の原料となる緑茶原料について分析を行い、茶葉の収穫や品質について気候変動の影響を確認しました。2021年度以降、大麦やコーヒーといった当社商品の原料の分析、製造工場や物流拠点の被害を分析しています。また、2023年度にグループで初めてとなる自然関連情報開示では、TNFDの各種ガイダンスを参照し、当社グループ事業の重要性を鑑みて優先度付けを行い、緑茶事業に関する自然資本/生物多様性の観点からの分析を進めており、2024年度はコーヒー事業へと分析範囲を拡大しています。
当社グループの事業における気候変動と自然関連事項に関する重要なリスクと機会を特定・評価するなかで、気候変動と自然資本/生物多様性は密接に関連しているとの認識に至り、それぞれの評価・分析は統合的に進め、課題の解決も一体的に進めていくことが重要だと考えています。
TCFD・TNFDに基づいた開示に向けては、分析対象の拡充と深化を図り、また、取り巻く環境や状況が刻一刻と変化していく中、更新された情報を収集しながら、リスク管理手法、KPIにつながる指標と目標の立案等の検討を進めていきます。
今後も、気候変動と自然資本/生物多様性の関連性の視点から、リスクと機会に関わる分析を進めるとともに、包括的な対応策に取組むことにより、伊藤園グループの持続可能性と社会のサステナビリティの向上につなげていきます。

なお、当社グループは2022年4月にTCFD提言、2024年4月にはTNFD提言に賛同を表明し、「TNFD フォーラム」※にも参画しています。TCFD・TNFDともに、今後さらなる対象範囲の拡充と分析内容の深化を図っていきます。

  • TNFDフォーラムとは、TNFDの理念に賛同する企業・機関・団体等によって構成される、TNFDの議論をサポートするステークホルダーの集合体

TCFD・TNFDへの対応 サマリー

項目 内容と対応
ガバナンス

TCFD(気候変動)・TNFD(自然資本/生物多様性)共通

  • サステナビリティ推進委員会(委員長:代表取締役社長)において、気候変動や自然資本/生物多様性問題に対する方針と戦略、対応を議論。
    重要事項は、取締役会および執行役員会に報告、審議し、経営戦略に反映。
  • サステナビリティ推進担当役員(CSO)を中心に、気候変動、自然資本/生物多様性の保全と回復を中心とした環境課題への推進体制を強化。
  • 気候変動を含む外部評価機関によるESG評価結果を役員報酬の査定に反映。
  • CHRO(人事・人権推進担当役員)の責任のもと、取締役会の諮問機関であるリスクマネジメント委員会(委員長:代表取締役社長)を中心に
    取組みの推進体制を構築。先住民族や地域コミュニティ等影響を受けるステークホルダーに対しては、「伊藤園グループ人権方針」や
    「伊藤園グループサプライヤー基本方針」に基づき、原料の調達先に対するデューデリジェンスの実施や、グリーバンスメカニズムを構築。
戦略

TCFD(気候変動)

  • <シナリオ分析>
    • 「1.5/2℃シナリオ」では、脱炭素社会への移行が完了していることを想定して移行リスクと機会を分析。
    • 「4℃シナリオ」においては、世界の気温上昇とその影響が悪化し続けることを想定して物理的リスクと機会を中心に分析。

  • <シナリオに基づく分析結果>
    • 移行リスク
      • 炭素税導入によるコスト増加
      • 影響額 2030年度想定 GHG削減対策なし:約20億円  GHG削減目標達成:約10億円 ※Scope1・2対象
    • 物理的リスク
      • 自社/委託工場、グループ会社/主要委託工場、物流倉庫における風水害リスク分析
      • 主力製品原料(緑茶、大麦、コーヒー豆)の収量、品質への影響
      • ※TCFD・TNFDレポート『戦略』にて、事業に対するリスクと主な機会の一覧を掲載

  • <移行計画>
    • Scope1とScope2の削減策については、「営業車両の電動車への転換」「省エネの推進」「再生可能エネルギーへの転換」の3つを柱にロードマップとKPIを作成し、取組みを推進。
    • Scope3については、容器包装の軽量化やサステナブル素材への転換や、サプライヤーへのエンゲージメントと協働により削減を推進。
    • ※TCFD・TNFDレポート『戦略』にて、リスクに対する現在の対応と今後の対応策の一覧を掲載

TNFD(自然資本/生物多様性)

  • <LEAPアプローチ>
  • Scoping:全事業の分析・評価対象の選定
    • リーフ・ドリンク関連事業における直接操業とその上流から下流まで全てのバリューチェーンを対象範囲として、事業活動と自然資本/生物多様性との関連性を分析。
    • 当社グループの主力製品の原料であり、取扱量が最も多い「緑茶」と、コーヒー2050年問題にもあるように、気候変動や生物多様性の影響を強く受けることが予想される「コーヒー」を分析・評価対象として選定。

  • Locate:自然との接点の発見
    • 自然への依存とインパクトが強く、事業上重要と考えられるエリアを「マテリアルな地域」、自然資本/生物多様性の観点で脆弱なエリアを「要注意地域」とし、優先地域を特定。
    • マテリアルな地域 ※TCFD・TNFDレポート『戦略』にて、緑茶事業・コーヒー原料に関する主な位置情報を開示
      • (緑茶)
         「茶産地育成事業」の新産地農家 7県9地区と、茶産地育成事業唯一の海外茶園であるオーストラリア
         その他、緑茶加工工場、飲料製造工場、包材資材供給会社、当社営業所、物流倉庫のうち影響が大きい拠点
      • (コーヒー)
         コスタリカにあるグループ会社の自社農園と、取扱量の多い国
         国内での流通は、上記緑茶とほぼ同様
    • 要注意地域
      • (緑茶)
         静岡・九州・埼玉をはじめとする国内に散在する茶畑とリーフ・ドリンク製造を行っている自社工場および委託工場
      • (コーヒー)
         主なコーヒー産地と自社工場および委託工場

  • Evaluate:依存・インパクトの診断
    • 緑茶事業、コーヒー事業のバリューチェーンの中で、「栽培」段階の自然への依存、インパクト度合がともに高いことを把握。土壌、雨を含めた水の豊かさや気候や病害虫に依存していることを認識。
      また、「栽培」とともにペットボトルなどの「包材」による自然へのインパクトが高いことも認識。

  • Assess:リスクと機会の評価
    • Evaluateで診断した自然への依存とインパクトから生じる事業上のリスクと機会を分析し、到達すべき状態である「あるべき姿」を特定。その上で、あるべき姿の実現に向けた現在の対応策と長期的な対応策を策定。
      ※TCFD・TNFDレポート『戦略』にて、事業に対するリスクと主な機会、現在の対応と今後の対応策の一覧を掲載

  • Prepare:今後の取組み、活動
    • Assessで特定したリスクと機会に対して、リスク低減のための今後の取組み、活動を整理。
      また、リスクと機会に対する指標と目標を明確化。
      ※TCFD・TNFDレポート『指標と目標』にて、自然への依存・インパクトに関するグローバル中核開示指標と測定指標、目標の一覧を掲載

今後は、対象範囲の拡充と分析内容の進化を図る。

リスクと
インパクト
の管理

TCFD(気候変動)・TNFD(自然資本/生物多様性)共通

  • 取締役会の諮問機関であるリスクマネジメント委員会(委員長:代表取締役社長)において、
    重要リスクの一つとして認識している気候変動リスク、自然資本/生物多様性の保全と回復を全社的なリスクマネジメント体制に統合して管理。
指標と目標

TCFD(気候変動)・TNFD(自然資本/生物多様性)共通

  • TNFDが提唱するグローバル中核開示指標にしたがって、依存とインパクトに関する測定指標と目標を設定。
    ※TCFD・TNFDレポート『指標と目標』にて、一覧を掲載
  • 目標は以下の通り
    • GHG排出量 *1(2018年度比)
      •  2030年度 Scope1・2 総量50%削減 Scope3 総量30%削減
      •  2050年度 ネットゼロ
    • 茶産地育成事業 展開面積
      •  2030年度 2,800ha
    • 水使用量原単位(生産1klあたりの水使用量)*2
      •  2030年度 3.0㎥/kl以下
    • 飲料製造工場の水源涵養率 *3
      •  2030年度 100%以上
    • ペットボトルのリサイクル素材等使用率
      •  2030年度 100%
    • 食品リサイクル率
      •  伊藤園 年間90%以上維持

その他、有効性評価を含めて今後も継続的に検討。

  • *1(株)伊藤園および連結子会社が対象
  • *2自社および協力工場における自社専用ライン
  • *3自社工場、協力工場の一部

TCFD・TNFDレポート

「TCFD・TNFDレポート」(2024年度)PDF