【研究レポート】緑茶成分によるインフルエンザ予防 ~新型インフルエンザの感染も抑制~

毎年、世界中で流行が確認される「インフルエンザ」。国内では気温が低下し、乾燥している冬季に猛威を振るいます。症状は、高熱や関節痛など風邪と比べて重いため、インフルエンザシーズンには、その予防方法や対策などの関連情報が注目を集めています。

お茶に多く含まれるポリフェノールの「カテキン」には抗ウイルス作用があり、お茶でうがいをするとインフルエンザ予防に有効であるといわれています。伊藤園は、うがい以外の予防方法や、特に流行が拡大する“新型インフルエンザ”について、お茶が効果的であるかを静岡県立大学薬学部との共同研究で確認をしました。

1.インフルエンザとは
2.新型インフルエンザウイルス感染抑制効果
3.緑茶成分の摂取でインフルエンザ予防

 

1.インフルエンザとは

インフルエンザは、インフルエンザウイルスによる気道感染症です。普通の風邪とは違い、症状が重くなる傾向があります。また、感染力がとても強いため、急速に広く蔓延します。

インフルエンザウイルスは、A・B・C型に分類され、特に冬季に大流行するのは、A型、B型ウイルスによるインフルエンザです。

インフルエンザ予防のひとつに、ワクチンの接種があります。予防接種は、感染力を無くしたウイルスを感染前にあらかじめ投与することで体内に抗体を作り出し、感染を抑制したり、感染後の症状を緩和させます。 ところが、ワクチンに用いたウイルスと流行するウイルスの型が異なると、その効果は期待できません。そのため予防には、その年に専門家が流行予測したインフルエンザウイルスのワクチンを、毎年接種する必要があります。

 

2.新型インフルエンザウイルス感染抑制効果

緑茶の主要成分である「カテキン」には、抗菌・抗ウイルス作用があることが知られています。インフルエンザウイルスについても、「カテキン」を用いた実験でA型およびB型インフルエンザウイルスの感染を抑制することが確認されています。

インフルエンザウイルスは、A・B・C型に分類され、それぞれに紐付く形でさらに複数の型が存在しています。毎年、それらのどれかが流行するのですが、それ以外に10年から40年の周期で、全く新しい型の“新型インフルエンザウイルス”が出現しています。“新型インフルエンザウイルス”は、ほとんどの人に免疫がないので、世界規模で大流行(パンデミック)を引き起こすことがあります。

伊藤園は、緑茶が“新型インフルエンザウイルス”に対しても有効であるかを確認するため、静岡県立大学薬学部の鈴木隆教授と共同研究を行いました。 研究では、「カテキン」の種類の一つであり、緑茶の中に最も多く含まれる“エピガロカテキンガレート”を使用し、培養細胞にて2009年から2010年にかけて大流行した1) 新型インフルエンザウイルス(H1N1型)を用いて感染抑制力を評価しました。その結果、“エピガロカテキンガレート”は、抗インフルエンザ薬で用いられる“アマンタジン”と呼ばれる成分よりも低い濃度で、新型インフルエンザウイルスの感染を抑制しました2) 。

さらに、緑茶に含まれる「ストリクチニン」と呼ばれる「カテキン」以外のポリフェノールでも同様の研究を進めました。「ストリクチニン」は、抗アレルギー効果が期待される機能性成分です。その結果、先の研究で用いた“エピガロカテキンガレート”の効果を上回る感染抑制力を確認することができました2) 。

 

EGCg、ストリクチニン、アマンタジンのインフルエンザウイルス感染阻害作用

50%感染抑制濃度(μM)∗
EGCg ストリクチニン  アマンタジン
ヒトA(H1N1)型(新型) 0.12±0.019 0.09±0.021 >50
ヒトA(H3N2)型 0.35±0.033 0.19±0.042 0.62±0.107
鳥A(H5N3)型 0.55±0.056 0.22±0.017 0.59±0.089

∗ウイルスの感染を50%抑制する濃度。値が低いほど効果が高い。

EGCgは、0.12μM(55μg/L)でウイルスの感染を対照の半分に抑制した。

緑茶には、「カテキン」や「ストリクチニン」以外にもさまざまな成分が含まれています。そのため、抗インフルエンザ作用をもつ成分は他にも存在する可能性が十分に考えられ、緑茶のインフルエンザに対するさらなる効果に期待ができます。

 

3.緑茶成分の摂取でインフルエンザ予防

風邪やインフルエンザの予防として、緑茶でうがいする方法は一般的に広く認識されています3) 。それでは、緑茶を飲んだ場合はインフルエンザの予防に効果があるのでしょうか。

伊藤園は、静岡県立大学薬学部の山田浩教授と共同で、新型インフルエンザが猛威をふるった2009年11月から2010年4月にかけて、医療施設の職員197名を対象としたインフルエンザ感染に関する試験を実施しました。対象を2つのグループに分けて、片方には緑茶の成分(カテキンとテアニン)のカプセルを、他方には緑茶の成分を含まないカプセル(プラセボ)を、5ヶ月間摂取していただきました。 結果は、カテキン・テアニン群では、97名中4名がインフルエンザに感染したのに対し(発症率4.1%)、プラセボ群では、99名中13名が感染し(発症率13.1%)、有意にインフルエンザの感染が抑制されました。カテキン・テアニン群では、投与を開始してから約70日目以降、新たな感染者が発生しなかったのに対し、プラセボ群では試験終了まで感染者が増加しました4) 。

以上の結果より、緑茶(緑茶成分)を摂取することにより、インフルエンザに感染するリスクが下がる可能性が示されました。

 

カテキン・テアニンカプセルによるインフルエンザ感染の抑制

 

インフルエンザの累積発症率

伊藤園は、長期ビジョンとして世界中のお客様に「お茶」の伝統から最先端の技術に至るまでの価値をお届けして、生活提案を行う「世界のティーカンパニー」を目指しています。今後も、長年培ってきた技術力を活かしつつ、新たな研究分野へもチャレンジを続け、持続可能な成長を追求してまいります。

共同研究者より

インフルエンザの感染予防について、ストリクチニンでの試験は初めてでしたが、カテキンはそれ以前にも報告がありましたので、新型インフルエンザウイルスであろうと、ある程度効果は出るものと期待していました。ただ、ポリフェノールは全て同じような効果を示すだろうと思っていましたが、実際に調べてみるとそれぞれ違っていました。天然成分にはいろいろな作用があるのだなというのが印象です。
緑茶を上手に活用して、普段の生活の上にインフルエンザの予防を考えるのもよい方法かもしれないですね。

静岡県立大学 薬学部・大学院薬学研究院
生化学分野 薬学研究院長
鈴木隆教授

カテキンによるインフルエンザ予防の研究は、最初はうがいから始めました。うがいで効果が認められたので、継続的に摂取した場合、どうなるのかに興味を持ちました。その後、伊藤園さんとの共同研究として、緑茶成分の継続摂取の試験を実施しました。その結果、緑茶の成分を継続摂取することで、インフルエンザ予防に効果があると確認できました。あの時は、緑茶でインフルエンザの予防ができるという認識を強く持ちましたね。
緑茶は予防接種のワクチンと違って新型インフルエンザウイルスにも対処できることから、インフルエンザの予防という観点では、緑茶でうがいをしたり、緑茶をこまめに摂取する習慣を日常生活に取り入れるのが効果的だと思います。

静岡県立大学 薬学部 医薬品情報解析学分野
健康支援センター長
山田浩教授

< 関連文献 >

論文

1) 国立感染症研究所 パンデミック(H1N1)2009
2) Saha RK, Takahashi T, Kurebayashi Y, Fukushima K, Minami A, Kinbara N, Ichitani M, Sagesaka YM, Suzuki T., Antiviral effect of strictinin on influenza virus replication. Antiviral Res. 2010, 88(1),10-8
3) Yamada H, Takuma N, Daimon T, Hara Y., Gargling with tea catechin extracts for the prevention of influenza infection in elderly nursing home residents: a prospective clinical study. J Altern Complement Med. 2006, 12(7), 669-72.
4)Matsumoto K, Yamada H, Takuma N, Niino H, Sagesaka YM、Effects of Green Tea Catechins and Theanine on Preventing Influenza Infection among Healthcare Workers: A Randomized Controlled Trial. BMC Complement Altern Med. 2011, 11, 15-21.

ニュースリリース

・2009年12月24日:緑茶に含まれるエピガロカテキンガレート(EGCg)が、新型インフルエンザウイルス(H1N1)予防に有効であることを細胞実験で確認
・2010年7月22日:緑茶に含まれるポリフェノールの一種・ストリクチニンがインフルエンザウイルスの増殖を阻害することを静岡県立大学薬学部との共同研究で確認

注)組織名、役職等は掲載当時のものです(2018年12月)