慶應義塾大学理工学部の武井史織(生命情報学科4年)、慶應義塾先端科学技術研究センター研究員の黄穎、同大学理工学部教授の宮本憲二、ピーライフ・ジャパン・インク株式会社社長の冨山績、SI樹脂産業株式会社(現:株式会社グリーンバリュー)の安倍義人(※)、株式会社伊藤園の内山修二(現:タリーズコーヒージャパン株式会社)、株式会社湘南貿易の橋本則夫らの研究チームは、生分解性添加剤P-Life(注1)を含有したポリスチレン(以下PS)の分解に適した微生物(分解菌)の取得に成功しました。
この成果は、難分解性ポリオレフィン系プラスチック(注2)であるPSの微生物による分解処理を実現する上で重要な一歩となります。さらに、この分解菌は、ポリオレフィン系プラスチックから生成したマイクロプラスチックの分解・除去にも有効であると期待されます。
本成果は、2026年3月10日の日本農芸化学会2026年度京都大会で発表されます。
研究のポイント
- P-Life含有PSの分解菌を複数発見した。
- これらの分解菌をP-Life含有PSに作用させたところ、明確な分解痕を確認した。
- これらの分解菌は紫外線処理したP-Life含有PSも分解することが分かった。
研究の背景
近年、自然環境へのプラスチック流出と蓄積が大きな社会問題となっています。特に、食品容器などで汎用されているポリオレフィン系プラスチックの一種のPSは自然界での微生物分解が非常に困難であることが課題となっています。
こうした中、ピーライフ・ジャパン・インク株式会社によりポリオレフィン系プラスチックに生分解性を付与する添加剤P-Lifeが開発されました。P-Lifeによってポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)は、徐々に官能基を持つ低分子化合物へと変化し、それらが自然環境に生息する微生物によってゆっくりと代謝分解されることは明らかになっています。本研究グループによって分解菌を取得することも成功しています。一方で、P-Lifeを含有したPSについては、自然環境中で分解が進むのかは明らかにはなっていませんでした。そこで、本研究では微生物の探索源や分離条件を工夫することで分解菌の単離に取り組み、その取得に成功しました。
研究の内容・成果
本研究では、本研究チームがすでに取得していたP-Life含有プラスチック分解菌に着目して、その中からP-Life含有PSシートを分解する菌株を探索しました。その結果、T6-1(Cupriavidus sp.)、 S10、 S15(ともにBacillus sp.)の3株がP-Life含有PSシートを顕著に分解することを見出しました(図1、2)。

図1 T6-1、 S10、 S15によるP-Life含有PSシートの分解痕

図2 T6-1, S10, S15によるP-Life含有PSシートの質量減少率
また、PSシートを紫外線処理することにより、分解効率が向上することが明らかとなりました。
今後の展開
本研究により、P-Life含有PSに対して高い分解能力を持つ分解菌を発見し、その有効性を明らかにしました。今回見出した分解菌とP-Lifeを組み合わせることで、PSの分解効率を大幅に向上させることが可能となります。今後、これらの分解菌は、難分解性プラスチック問題の解決に向けて重要な貢献を果たすことが期待されます。本成果を基盤として、プラスチックの環境負荷低減に向けた研究をさらに進めてまいります。
「学会発表情報」
日本農芸化学会2026年度京都大会、3月10日、同志社大学今出川・室町キャンパス
演題:P-Life含有PSの分解菌の探索と評価
演者:武井 史織、黄 穎、冨山 績、安倍 義人、内山 修二、橋本 則夫、宮本 憲二
「研究費」
本研究は、JST共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)JPMJPF2111 の支援により行われました。
「用語説明」
(注1)P-Life:微生物分解が困難とされる難分解性プラスチックを、微生物分解へと導く画期的な添加剤です。難分解性プラスチックは、P-Lifeにより官能基を持つ低分子化合物へと変化し、微生物により分解されやすくなります。さらにP-Lifeは, 植物油から製造されており、安全性の高いものです。また、P-Lifeは、PPおよびPSの物性や加工性に影響を与えません。
(注2)ポリオレフィン系プラスチック:単純なオレフィンをモノマーとして合成された高分子化合物の総称です。代表的なものとして、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)があります。一般的に、微生物による生分解は困難です。
(※)安倍義人は、株式会社伊藤園のグループであるSI樹脂産業株式会社で本研究に専念し、その後、事業譲渡先となった同グループの株式会社グリーンバリューを退任しています。