緑茶は認知機能と睡眠に良い影響を及ぼすのか?

お茶のリーディングカンパニーである伊藤園は、加齢に関連する健康課題に取り組むため、緑茶・抹茶の研究開発に力を注いでいる。

このページの内容は、Nature2024年3月14日号に掲載された記事広告(URL: https://www.nature.com/articles/d42473-023-00394-0)を日本語に翻訳し、レイアウト・転載したものです。当ページの内容は株式会社伊藤園の責任のもとで掲載をしております。
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緑茶市場は世界的に急拡大しており、2028年には260億ドル(約3兆9000億円)を超えると予測されている。その人気の高まりの一因は、緑茶が健康上、有用であると報告する研究が増加していることにある。世界有数の緑茶メーカーであり、東京に本社をおく株式会社伊藤園は、健康に関連した研究に取り組み、エビデンスの解明に貢献しており、緑茶が認知機能や睡眠の質に及ぼす影響を調べている。

代表取締役社長 執行役員の本庄大介 氏は「伊藤園グループは、緑茶と抹茶が持つ健康価値について、正しい情報を提供し、研究結果の普及に努めています。そして、私達はこうした研究結果をさまざまな国の食文化と融合させ、緑茶と食事の相性を提案することで、食生活の栄養バランスの向上に貢献したいと考えています」と語る。

伊藤園の研究者たちは、この目標を念頭に、緑茶の効果についての基礎研究を行ってきた。本庄氏は、数々の疫学研究を挙げて、お茶を摂取することと健康との間に関連性があることを示唆する。「こうした関連性を、研究を通じて検証することで、多くの人々の健康に貢献できる可能性があります」と、静岡県にある伊藤園中央研究所長の瀧原孝宣氏は言う。

特に研究者からの関心が高いのは、緑茶に含まれるいくつかの主要成分である。そのひとつは、テアニンと呼ばれるアミノ酸、そしてカテキンとして知られる植物由来抗酸化物質だ。

テアニンは血液脳関門を通過することができ、カフェインの興奮作用を抑制する働きがある。さらにテアニンは、脳神経を保護したり、ストレスを軽減し、睡眠の質を向上させたりする可能性があることが示唆されている。「テアニンは、緑茶のうま味成分のひとつでもあります」と、本庄氏。

また、緑茶に多く含まれるカテキンは、緑茶の渋みやわずかな苦みの主成分であり、抗酸化作用、抗炎症作用、抗菌作用、抗ウイルス作用があることが知られている。

「伊藤園は、カテキンの体脂肪低減効果やLDLコレステロール値低下作用を明らかにしてきました」と、本庄氏。

伊藤園の研究者たちは、カフェイン、テアニン、カテキンが若い成人および高齢者の認知機能にそれぞれどのような影響を与えるか、そしてこれらの成分に相乗効果があるかどうかを研究している。

 

認知機能への影響

中高年者の脳機能の改善効果が、緑茶に含まれるカフェインによるものなのか、他の成分が関与しているのかどうかを明らかにするため、伊藤園の研究者が主導して、抹茶とカフェインの効果を比較する、ランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験が行われた。

健康な日本人男女 計51人(50~69歳)を、カフェイン、抹茶、プラセボの3群に割り当て、1日9カプセルをそれぞれ12週間摂取した。その結果、抹茶を摂取した群は、カフェインを摂取した群と比較して、心理的なストレスに直面した際の、注意力と作業パフォーマンスが向上することが分かった。

伊藤園の研究者チームはさらに、日本人高齢者に対するテアニンとカテキンの効果を調べるため、ランダム化プラセボ対照二重盲検比較試験を他にも2件実施している。

1つは、日本の高齢者の認知機能にL-テアニンが与える影響を検証するために行われた試験で、69人の参加者が、L-テアニンまたはプラセボのカプセルを12週間毎日摂取した。

その結果、L-テアニンを単回摂取した群は、注意力を要する課題に対する反応時間が短くなり、かつ正しい答えをより多く導き、間違いも少なかったことが分かった。この試験の著者たちは、L-テアニンが注意力を高め、作業記憶と実行機能を改善する可能性があると述べている。

もう1つの試験では、カフェインではなくカテキンが認知機能に及ぼす影響に焦点を絞り、60人がカフェインレスの緑茶から抽出したカテキンのカプセルを12週間摂取した。その結果、認知機能を調べる試験において、カテキンの単回摂取により不正解率が減少し、12週間の継続摂取後には反応時間が短くなることが分かった。研究チームは、これらの結果から、緑茶カテキンを継続的に摂取することで、作業記憶が向上する可能性があると述べている。

 

質の良い睡眠

睡眠は、特に若者の身体的・精神的健康に欠かせない。この睡眠について、伊藤園と愛媛県立医療技術大学の研究チームは、21〜22歳の女子学生を対象に、緑茶が睡眠に及ぼす影響を調べた。この研究では、テアニンが、カフェインの興奮作用を相殺して、全体的な睡眠の質を向上させるかどうかが調べられた。

この研究は、4種類の飲料の単回摂取二重盲検クロスオーバー試験であった。各群9人がセンサーと電極を装着し、就寝直前に4種類の飲料(テアニン50 mg、カフェイン30 mg、テアニン50 mg+カフェイン 30mg、またはプラセボが含まれる)のいずれかを摂取した。

参加者の入眠までの時間、睡眠の長さ、夜間の中途覚醒時間、さらに、入眠後の覚醒状態(入眠してから完全に目が覚めるまでの覚醒時間)も測定した。睡眠段階は脳波で判定し、近赤外分光法で脳血流量を測定した。

その結果、カフェインをテアニンと組み合わせた場合、カフェインによる睡眠開始後の中途覚醒が抑制されることが分かった。つまり、睡眠の質に対するカフェインの負の影響を、テアニンが軽減できるのである。

 

将来を見据えて

こうした研究結果は、緑茶が健康とウェルビーイングにとって重要な「認知機能」と「睡眠」に有益な効果をもたらす可能性を示唆している。

「人生100年時代が到来する中、長寿を謳歌するためには、健康寿命(健康でいられる期間)を可能な限り延ばすことが重要だと考えています」と本庄氏。「伊藤園は、その実現のために、さまざまな外部研究機関と協力して、認知機能、睡眠、フレイル(高齢者虚弱)などの健康課題における緑茶や抹茶の有効性を明らかにしています。特に、日本の超高齢社会という課題への取り組みは、世界が注目していると考えています」と本庄氏は語る。

緑茶や抹茶が健康をどのように改善し、ウェルビーイングを向上させることができるかを解明することは、日本がこの分野で輝く方法の1つなのかもしれない。

参考文献

  1. M. I. Prasanth et al., Nutrients 11, 474 (2019).
  2. Y. Baba et al., Nutrients 13, 1700 (2021).
  3. Y. Baba et al., J. Med. Food 24, 333-341 (2021).
  4. Y. Baba et al., Molecule 25, 4265 (2020).
  5. Y. Baba et al., Food Funct. 14, 7109-7116 (2023).