抹茶の継続摂取による睡眠の質の向上と社会的認知機能の改善を確認

ヒトを対象とした研究で抹茶の長期摂取効果を総合的に解析する世界初の臨床試験 8月2日(火)、アルツハイマー病協会国際会議2022(AAIC2022)にて発表

株式会社伊藤園(社長:本庄大介 本社:東京都渋谷区)と筑波大学発ベンチャーの株式会社MCBI(社長:徳美喜久 本社:茨城県つくば市)の2社は共同で、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)と主観的認知機能低下(SCD)の高齢者を対象にした臨床試験「抹茶の認知機能低下抑制効果を評価する試験」を実施し、抹茶を継続摂取することで睡眠の質向上と社会的認知機能の改善を確認しました。本共同研究チームは8月2日(火)、この研究成果をサンディエゴ(アメリカ合衆国カリフォルニア州)で開催されるアルツハイマー病協会国際会議(Alzheimer's Association International Conference:AAIC)(※)2022にて発表しました。

(※)Alzheimer’s Association International Conference® 2022:認知症科学の進歩を目的とし、アルツハイマー病の予防と治療および診断の改善につながる研究成果を共有する世界最大級の国際会議。2022年は7月31日(日)から8月4日(木)の期間で開催(現地及びオンライン)。

抹茶は古くから日本国内において親しまれてきた飲み物ですが、その成分である「テアニン」には、ストレス緩和、睡眠改善、さらにはワーキングメモリーの改善などの効果があり、「カテキン」には、血中コレステロールの低下、体脂肪の低下、さらにはワーキングメモリーの改善などの効果があると報告されています。また、抹茶の短期間の摂取効果として、中高齢者の「注意力」および「判断力の精度」を高めることが報告されています。

本臨床試験では、抹茶の長期摂取の介入前後に、試験参加者への認知機能検査、血中バイオマーカー測定、血中動態分析、脳イメージング(fNIRS、アミロイドPET)、睡眠調査などを実施し、抹茶の効果とバイオマーカーの変化を総合的に解析することを目的とし、研究を実施しました。

○臨床試験の方法

60歳から85歳の高齢者を中心とした939名を募集し、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)およびプレクリニカル期にあたる主観的認知機能低下(SCD)と診断された99名の試験参加者を対象に、抹茶の長期摂取による認知機能等への影響を、二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験により検証しました。抹茶群では抹茶カプセル(1日あたり抹茶2g摂取)を12か月間摂取し、プラセボ群では着色コーンスターチを充填したカプセルを用いました。試験開始時から12か月までの各評価項目の変化を混合効果モデルにより統計的に検証しました。

○抹茶による「睡眠の質」と「社会的認知機能(顔表情からの感情知覚)」への効果を確認

睡眠の質をピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を用いて評価した結果、抹茶群でPSQIスコアが低下し、睡眠の質が向上する傾向が示されました(図・左)。また認知機能に関しては、認知症やMCIのスクリーニング等に用いられる神経心理学的検査(MMSE-J、MoCA-J等)での得点で抹茶群とプラセボ群の間に差はみられませんでしたが、コグニトラックス検査(CNS Vital Signs日本語)による認知機能の領域別の評価では、抹茶群はプラセボ群に比較して、表情認知テストで表される社会的認知、具体的には顔表情からの感情知覚の精度が有意に改善することが確認されました(図・右)。

当社は、お茶の価値を科学の目でとらえ、「人生100年時代を豊かに生きる」ための生活改善提案に向けた研究開発を行っています。その中で、超高齢社会に生きる高齢者の方々がより良い日常生活を送る上で、「睡眠の質」や「社会的認知機能(顔表情からの感情知覚)」を維持していくことは極めて重要であると考えています。今後、本研究で確認した抹茶の継続摂取による「睡眠の質の向上効果」「社会的認知機能の改善効果」の関連性やメカニズムの解明、またその他の検査内容の解析などを進めていきます。この取組みを通じて、超高齢社会に生きる高齢者の方々の豊かな生活への貢献によって、健康で豊かな生活と持続可能な社会の実現に寄与してまいります。

 

研究協力機関:
筑波大学医学医療系精神医学(新井哲明教授)
医療法人社団創知会メモリークリニック取手(朝田隆理事長)

 

用語の説明:

軽度認知障害(MCI: Mild Cognitive Impairment)
アルツハイマー病など認知症の前駆状態です。物忘れは目立つものの、日常生活には支障はありません。MCIの40%が4年後にアルツハイマー病などの認知症を発症すると言われています。

主観的認知機能低下(SCD: Subjective Cognitive Decline)
軽度認知障害(MCI)の前段階とされ、客観的には認知機能の低下は認められないですが、自分だけが物忘れを自覚している段階です。

fNIRS (functional Near-Infrared Spectroscopy)(エフニルス)
生体への透過性が高い近赤外光を用いて,血流量の変化を多点で計測し画像化する脳機能イメージング装置です。脳の機能を可視化する技術の中でもfNIRSは自然に近い安全な環境下で簡便に脳の活動状態を測定できます。

アミロイド PET
アミロイド PET 検査は、脳内に蓄積したアミロイドβを可視化する PET(陽電子放射断層撮影法)を用いた画像検査です。

アミロイドβ
アミロイドβ沈着(老人班)がアルツハイマー病の病理的病変です。アミロイドβは神経細胞毒性を示し、アミロイドβの産生および蓄積の異常がアルツハイマー病の発症に深く関係しているといわれています。

コグニトラックス(CNS Vital Signs日本語)
全10項目のテストで構成されるパソコンを用いた認知機能検査。本研究では他の神経心理学的検査との重複を避けるため、ストループテスト(文字の色と意味が合っているか判断します。例:青という文字が黒い色で書かれている)・注意シフトテスト(提示図形△□に対してランダムに切り替わる指示「色が同じ」「形が同じ」に合う図形を選ぶ)・持続処理テスト(ランダムに表示される文字の中で特定の文字が出たときのみキーを押す)・表情認知テスト(写真に表示された表情と下に書かれた感情の説明表現(例:穏やか、悲しみ等)の意味が一致しているか判断する)の4種を実施しました。

ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI-J ; Pittsburgh Sleep Quality Index 日本語版)
総合的な睡眠の質について自記式で回答し採点・評価を行うことができる、最も多くのエビデンスが集積されている睡眠評価尺度です。過去1か月間の睡眠について尋ね、6点以上で睡眠障害がありとされています。

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