にんじんピューレ配合飲料摂取により大腸平均通過時間の短縮を確認

~便通改善効果および大腸がんリスク低減効果を期待~

株式会社伊藤園(社長:本庄大介 本社:東京都渋谷区)は、昭和大学臨床薬理研究所の内田直樹教授、岡崎外科消化器肛門クリニックの岡﨑啓介院長らと共同研究を行い、にんじんピューレ配合野菜・果実飲料摂取が大腸平均通過時間を短縮することで、便通改善効果およびこれに付随した大腸がんリスク低減効果を発揮することを、ヒトを対象とした臨床試験で確認しました。この試験結果の詳細を、8月25日(木)から名城大学(愛知県名古屋市)で開催される「日本食品科学工学会 第63回大会」で発表いたします。

経緯1
厚生労働省の平成25年国民健康・栄養調査結果によると、日本人の1日の野菜摂取量は成人で平均約280gであり、「健康日本21(第二次)」の目標値である350gの約80%にとどまっています。この不足分を簡便に補うことを目的として、野菜飲料や飲みやすくするために果汁を混合した野菜・果実飲料が様々発売されています。また、食感を高めるために野菜をピューレ化したものを配合した野菜・果実飲料を発売しています。我々は野菜・果実飲料に、にんじんピューレを一定以上配合すると、流動性が変化するなど、飲料の力学特性が変わることを報告しています(※)。このような飲料の摂取は腸管蠕動運動が高まると考えられました。腸管蠕動運動が上手くいかないと便秘、特に機能性便秘を引き起こす要因となります。そこで今回、にんじんピューレ配合野菜・果実飲料の摂取で便通改善効果が期待できると考え、臨床試験を実施しました。
(※)Biosci Biotechnol Biochem. 2012;76(3):429-35.

研究内容1
便秘の自覚症状のある男女18名に試験飲料としてにんじんピューレ30%配合飲料、あるいは対照としてにんじんピューレ未配合(0%)飲料を1日2本(1本200ml)、8週間摂取させ、排便調査を実施しました。

結果1
にんじんピューレ30%配合飲料の摂取により、摂取前と比較して週の排便量が有意に増加しました(図1)。

図1 排便量(個/週) 鶏卵Lサイズ換算

*0週 と比較して有意差あり(P < 0.05)(対応のあるt 検定)

排便量(個/週):鶏卵Lサイズを1個として換算

経緯2
近年、日本人の大腸がん罹患数および死亡数は増え続けています(国立がん研究センターHPより)。腸内で便の滞留時間が長くなると、発がん性物質(二次胆汁酸:脂肪の消化を助けるために分泌された一次胆汁酸が腸内細菌により代謝されたもの)が粘膜と接触する時間も長くなるため、大腸がんの発生する危険性を増加させると考えられています。そのため、二次胆汁酸は大腸がんの危険因子のひとつと考えられており、便中の二次胆汁酸を上昇させないことが重要と考えられます。
そこで、便通改善効果に付随して便の二次胆汁酸比(二次胆汁酸/一次胆汁酸)を低減するかどうか検討を行いました。

研究内容2
高脂肪低食物繊維食(サーロインステーキと白米:脂質57.2 g、食物繊維2.55 g、1,081 kcal)の摂取の際に、対照としてにんじんピューレ未配合(0%)飲料および試験飲料として、にんじんピューレ30%配合飲料2本(1本200ml)を慢性的な便秘でない男性9名に摂取させ、翌日の便の二次胆汁酸比(二次胆汁酸/一次胆汁酸)への影響の検討を行いました。また、通常時の二次胆汁酸比を得るため、試験開始前の便を回収しました。

結果2
通常時と比較して高脂肪低食物繊維食+対照飲料での便中二次胆汁酸比は上昇しましたが、高脂肪低食物繊維食+試験飲料ではその中間値を示しました(図2)。にんじんピューレ30%配合飲料の摂取は、高脂肪低食物繊維食摂食による二次胆汁酸比の上昇を抑制しました。

図2 便中二次胆汁酸比の箱ひげ図
n = 9.異なる文字間で有意差あり、p < 0.05で有意差ありとした。

経緯3
腸管蠕動運動が高まるかどうかをヒトで直接的に検討するのは困難です。しかしながら、放射線不透化マーカーを用いて、便の大腸平均通過時間を測定することで間接的に腸管蠕動運動を評価できます。そこで、にんじんピューレ配合飲料の摂取により便の大腸平均通過時間が短縮するかどうか検討を行いました。

研究内容3
二重盲検クロスオーバー比較試験にて対照としてにんじんピューレ未配合(0%)飲料および試験飲料として、にんじんピューレ30%配合飲料2本(1本200ml)を健常男性26名に1週間摂取させました。その間、放射線不透化マーカーを用いて大腸各区域の平均通過時間を算出しました。

結果3
にんじんピューレ30%配合飲料摂取による全大腸平均通過時間の短縮効果は認められなかったものの、層別解析を行うと、対照飲料摂取時の全大腸平均通過時間が長い被験者では、にんじんピューレ30%配合飲料の摂取による短縮効果が認められました(表1)。

表1 全大腸平均通過時間および大腸各部位平均通過時間の層別解析
(0%配合飲料摂取時の全大腸平均通過時間が長い被験者)
中央値(時間). n = 10.異なる文字間で有意差あり、p < 0.05で有意差あり。

これらの結果から、にんじんピューレ配合飲料摂取は大腸平均通過時間を短縮することで便通改善効果およびこれに付随した大腸がんリスク低減効果を期待できる可能性が示唆されました。
今後は、女性でも男性と同等の大腸平均通過時間短縮効果が認められるかどうか、また、試験飲料の継続摂取時の影響の検討を行い、さらなる研究を進めてまいります。